もう22年も経つのだけれど、鮮明に五感が覚えている。
本当にこの世の終末が来たと思った。街はしばらくのあいだ地獄絵だった。
ところが川ひとつ隔てた向こう側の街はあらかた、ごく平常に機能し人びとは普通に生活している。
そしてどちらの地域にも、平等に朝が来て、夜が来る。冷たい雨が降り、北風も吹く。
傷を負った地域には手をゆるめてくれればいいのに。
自然の摂理の無慈悲に、天を恨む気持ちにもなった。
でも、その容赦なさに追い立てられ、人々は前を向いて歩かなければならなかった。
それが大いなるものの意図なのか。
どんな酷いこと、受け入れられないことがあっても、世界は終わらない。
惨事をくぐりぬけたひとはみなそう実感したはず。
だからこそ、失った魂に想いを寄せて、ていねいに生きていかねば。