不思議な関係だ。
あなたとは実際に会ったことがない。
でも、濃密な付き合い。
それが始まってから、13年ほど・・・
最も信頼できる翻訳者として、
あるときは無理難題を押し付け、
あるときは厳しい納期を押し付け、
得意分野以外のことも押し付け、
でも、すばらしい成果物が上がってくるのが分っているから、
ハードルの高いものは真っ先に、
あなたにしかお願いできないものだから、
そして、
ハードルが高ければ高いほど、
真っ向から向き合って、
信頼にかならず応えてくれる。
あなたの翻訳を推敲していると、
冴えてる! とか
今回はエネルギーがみなぎっている! とか
この辺で、すこし睡魔がおそってきた? とか
なんだかあなたが手に取るようにわかり・・・
ふだんはE-Mailのやりとりばかり。
気難しい人ではあるが、
切羽詰って電話すると、
「あー!こんにちは!」と、急に暖かいトーンで、
「わかりました、いいですよ」と、引受けてくれて。
すばらしい翻訳、ありがとう、とか、
厳しい納期で対応してくれて、助かりました、とか
クライアントさんから、私はさんざん感謝され、
でもそれはあなたのおかげ。
いったいわたしは、どれだけ助けられてきたことか。
あなたの生活の一部分を支えているかもしれない。
そういう意味では、運命共同体。
でも、私は、あなたの紡ぐ言葉が、どんどん洗練されていき、
知識も蓄積されていき、
成果物が、毎回その品質をあげていることに、
驚異と尊敬を禁じえない。
昨年、都心からかなり離れた場所に居を移し、
これまで以上に、前向きに仕事に取り組む姿勢に
こちらも襟を正す思いだった。
どう転んでも、エース。
正真正銘の輝く星。
なのに・・・
一昨日飛び込んだ、突然の訃報。
・・・・ことばがない。
連休をはさんで、大作といえる英訳を依頼した。
某国立大学主催の、重要な話題を扱うシンポジウム。
そこで討議された推進派と反対派の、かつてないほど深く彫りさげた討論。
話題は技術的側面から、人間の生にかかわる哲学的側面にまで及び
日本語で読むだけでずっしりと疲れる内容だったが、
まさに、すばらしい出来の英訳を返してくれた。
これまでの、ベスト1の品質だと、そのとき、まさに感銘を受けた。
なぜ!
その、最高の仕事が、あなたの遺作になってしまった・・・・
これは、受容れたくない現実です。
あなたにかわるひとは、居ない。
これまでも、そしてこれからも。
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Uさん、ほんとうに、ほんとうに、ありがとうございました。
あなたと出会えたこと、こころから感謝します。
いまは、ただただ、ご冥福をお祈りするばかりです。