むかしむかし、バスに車掌さんがいたとき。
そう、わたしがまだほんとうに小さい時分。
ピアノの稽古に、はじめて「ひとりで」バスにのって出かけた。
ドキドキ。
そのころのバスは、乗るときに車掌さんにお金を払って、切符をもらい、降りるときに切符をわたす方式だ。
車掌さんは、肩から掛けた黒い車掌バッグから切符を出して、乗るお客さんに渡していく。
私の番が来て、私がお金を払ったら、おつりだけくれた。
多分、小さかったので、切符をなくしたらいけないと思って、車掌さんは気を利かせてくれたのだろう。
?――――――――私は混乱した。
なんで、切符じゃなくて、お金しかもらえないのか?
降りるとき、何をわたせばいいのか?
バスが目的地に着くまでの15分ぐらいのあいだ、必死で考え続けた。
どうしよう、どうしよう・・・・
(自分の中に引き出しがない。)
とうとう降りる停留所がきた。
私は自分なりに結論を出した。
みんな、降りるとき、車掌さんに切符を渡して降りるのだ。
でも私は渡すべき切符を渡してもらってない。
だから私は、もらった5円玉を車掌さんに渡して降りた。
車掌さんの手が止まった気がしたが、降りて、そのまま歩いた。
よかったんだ、これでよかったんだ・・・・
それからも、なんとなく誰にも聞けず、自分の中でぼんやりとした疑問を抱えたまま大きくなった。
自分の行為を、「アホやん!」と思いはじめたのはいつごろだったか?
小さい脳みそで考えて考えて考えすぎて頭痛がするぐらい凝縮した、バスのなかの15分間。
ウン十年たったいまでも、わたしのなかに、残っている。
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