芋づる式に、もうひとつ思い出した話がある。
東京で、通訳の訓練をしていたころ。
OJT(On the Job Training)といって、通訳学校の親会社が請け負った仕事に、実地訓練として借り出されることがよくあった。
カナダの大手飲料会社から、社長をはじめとする幹部が来日、名古屋の大手飲料会社を訪問することになって、何人かの通訳が彼らに同行することとなった。
ガイド通訳のようなもので、なにかあったときのために随行するという形。
現地での会議には、ベテランの通訳がつくことになっていた。
わたし的には、まあ気楽なもんだ。
ところが当地について、あとから追いつくはずの本チャンの通訳嬢が、新幹線が遅れて会議に間に合わないという事態になった。
先方の担当者がきて、「スケジュールは遅らせられないので、だれか、代わりにおねがいします!」
・・・しーーん・・・・
ほかにも数人、駆け出し通訳が居たが、みな私より若いし経験が少ない。
その中ではわたしが、まだ「マシ」という状況だ。
全員の目がジトーーッと私に注がれる。
う~~~~~ 大手の幹部同士の会議なんて。。。。 自信ないよ~~!
でも会議室にはもう全員、集まって待っている。断ったりしてられる状況じゃない。
しかたなく、「ぢゃ、わたくし、やります」 と弱弱しく申し出る。
会議が始まる。いつもテープを聞きながらする練習さながらに、必死でメモをとる。
汗が背中をツツーッとながれている。もちろん冷や汗!
声がかすれたり、裏返ったり、つまったり。
「だいじょぶやろか、この通訳・・・」みたいな空気がひしひし感じられる。
しどろもどろしながら、20分ぐらいだろうか(私には2時間ぐらいに思えた)、やっと本チャンの通訳嬢が到着した。
助かった!
さっそうと登場した彼女を見て、カナダ人の社長が笑いながら一言、“Oh, here comes a relief pitcher!” (リリーフピッチャーが来た!)
その場の空気が、和んだ。
私も一緒になって笑ったが、ほっとする半分、情けない半分で泣きそうだった。
ヒットをめった打ちされ、降板・・・
このときばかりは、どたん場で力が発揮できるとは行かなかったな・・・
ただ、エース登場!という感じで華々しく会議室に入ってきて、流暢に仕事をこなし始めたベテラン通訳をみて、「私もああなりたい!」と強く思った。
それからの勉強の原動力となったのは、彼女の放っていた強いオーラと、「リリーフピッチャー!」という、あの社長の一言だった。