あるベーシストが弓で奏でるアルコを聴いているうちに、このあたたかな弦の音色はどこかで親しんだはず・・・と思った。
多分、小学校のとき・・・
そうだ! 給食時間にいつも流れていたサンサーンスの「白鳥」のチェロの音色だ。
なにしろ毎日のことだ。
必ずしも給食が大好きではなかったのだが、白い割烹着と三角巾をした給食当番の子たちが、授業とはうってかわってきびきびと働いたりしてたっけ。
アルマイトの食器のかちゃかちゃいう音とか、おかずのにおいとか、ぽそぽそしたコッペパンのあじけなさとか、教室の床の色とかが、「白鳥」のメロディーとともに、そこはかとよみがえってくる。
この曲は、「瀕死の白鳥」としてバレエの組曲として踊られているようだ。
怪我をした白鳥がもがき苦しみやがて死んでいくという美しくも哀しいストーリーである。
それでも、「すりこみ」はおそろしい。
サンサーンスには悪いが、やっぱり白鳥は給食のうたなのだ、
そして、食が細かったため(ほんとうですったら!)苦手だったわたしの給食タイムを唯一、ほのぼのとさせていたのは、やはりあのチェロの、深くあたたかい音色なのだった。